birthday
「誕生日おめでとう」
9月9日。
夜になっていきなり獄寺の家へとやってきた雲雀が、家に入るなり言った。
「……知ってたんだ」
「一応ね」
まさか雲雀にそんなことを言われるとは思わず、獄寺は驚いて少し目を見開く。
突然やってくるのはいつものことだが、今日来るとは思っていなかった。
今年の誕生日は日曜だったので、昼間は沢田の家でいつものメンバーが誕生会を開いてくれて、嬉しい反面少し気恥ずかしくて。沢田の母や女子たちが腕を奮ってくれた料理やケーキはどれもおいしかったけど。
帰り道で見回りと称して、いつものように不良を咬み殺している雲雀を見かけた。
日曜であるのに学ランを羽織って。休日であるのに、とその姿を見て少し呆れながら、声をかけることはせず、家に帰って来たが。
今日が誕生日であることを雲雀に言ったことはないし、わざわざ祝って欲しいとも別段思っていなかった。
そもそも雲雀の誕生日も、過ぎてから知ったくらいだ。それに不満を言うことも言われることもなかったが。
なので雲雀がまさか自分の誕生日を知っているとは思わず、獄寺は雲雀の突然の訪問にただ驚くばかりだ。
「いつまでそうしてるの?」
玄関で驚きに立ち尽くしたままでいると、さっさと靴を脱いで家に上がっている雲雀が呆れた声をかける。
「あっ……」
言われてやっと獄寺は立ち尽くしたままの自分に気づき、振り向くとすでに雲雀はリビングのドアを開けていて、慌ててその後を追う。
「ヒバリッ!」
「なに?」
羽織っていた学ランをソファの背にかけて、勝手にソファに腰掛けて雲雀は勝手に寛いでいる。名前を呼んだはいいが、その先をなんと続ければいいのかわからず獄寺は言葉に詰まる。
「あー…えっと……」
頬を指で掻いて、言葉を探す。先ほどおめでとうと言われたから、雲雀は一応誕生日を祝うために来てくれたのだろうか。しかしあらためて聞くのも気まずくて、視線を逸らす。
「とりあえず座れば」
どっちが家主だかわからない台詞を吐いて、雲雀が自分の隣を指差す。
言葉が見つからないまま、獄寺はとりあえず言われるままに雲雀の隣に座った。
「はい、これ」
するといきなり雲雀から小さな袋を渡される。手のひらに乗るくらいの、小さな袋。
「なんだよ?」
「誕生日プレゼント」
「はっ!?」
思わず渡された袋と雲雀を見比べる。
誕生日を知っていたこともさることながら、プレゼントまで渡されるとは青天の霹靂。
明日は大雨でも降るのだろうかと、思わず窓から空を見上げた。
「開けてみてよ」
だが獄寺の動揺に気づいていないのか、気にしていないのか雲雀が袋を指して言った。
「あ、ああ……」
驚きはしたが、雲雀のくれたプレゼントの中身が気になって、獄寺は恐る恐る袋を開ける。
そして中に入っていたものを手のひらの上に取り出す。
「ピアス……?」
入っていたのは大きめの赤い石がついたシンプルなピアス。
手に取ってマジマジと眺める。
「うん。そのくらいならつけてても見逃してあげる」
いつも風紀風紀と言って、服装検査の度にアクセサリーをことごとく没収していく雲雀にしては、ずいぶんと寛容なことを言う。
だが。
「でもオレ、ピアス開いてないんだけど……」
もらったはいいが、ピアスホールが開いていなければ意味がない。雲雀も獄寺がピアスを開けていないことは知っていたはずだと思うが。
なんとなく自分が悪いわけではないが、申し訳なく思って獄寺はおずおずと告げる。
「開ければいいじゃない」
しかし雲雀の答えはあっさりしたもので。当然のように言われて、それはそうだけどと、獄寺は戸惑う。
今までピアスを開けようとしたことはないので、開けてみたいとは思うが、いきなり言われても困る。
「どうやって?」
「針刺せば開くでしょ」
「え?そういうもんなのか!?」
確かに穴は開くと思うが、穴が安定するまでのファーストピアスとかがあるのはなかったか…と獄寺は、どこかで聞いた気がするうろ覚えの知識を思い返す。
「開けてあげようか?」
「いや、うーん……」
「なに?嫌なわけ?」
「そうじゃないけど……。今度ピアッサー買ってくる」
やはり最初はきちんとしたくて、せめてピアッサーで開けようと思い、獄寺がそう言うと、雲雀は少し不機嫌になる。
「めんどくさい」
「そう言うなって!開けるのはオレなんだよ。……明日、買ってくるから」
一応、獄寺もせっかくもらったプレゼントを早くつけたい気持ちはある。なので明日の帰りにでも早速買ってこようと決めた。
「昼」
「あ?」
「昼休みに応接室に来て。買っておくから」
獄寺の耳に触れながら、雲雀がそう言って少し微笑う。そして獄寺の手からピアスを取って、獄寺の耳にかざす。
「この色、君に似合うと思うんだ」
「――ッ」
雲雀の台詞に、獄寺は思わず息を飲んで顔を赤らめる。少し照れくさくなりフイと顔を背けて、足を組んでソファに深く寄り掛かった。
「ちゃんと買っとけよな!」
照れかくしに尊大にそう言うと、雲雀がクスリと笑う。
「獄寺」
そして獄寺の名を呼ぶ。
「なんだよ」
獄寺はまだ少し顔を赤くしながらも、チラリと振り向く。すると、雲雀が顎を掬って至近距離まで引き寄せられる。
「誕生日おめでとう」
そう言って寄せられる唇。
こんな風に雲雀に祝われるのも悪くない。そう思うと思わず頬が緩み、獄寺は自分からも雲雀の背に腕を回し、下りてくる唇を受け止めた。
雲獄式誕生会のペーパーより。
いつか続きを書きたい。
(初出:2012/09/09)